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仙台高等裁判所 平成元年(ラ)78号 決定

抗告人 関口隆治

青森地方裁判所八戸支部昭和五八年(ケ)第一四三号、昭和六〇年(ケ)第一一二号不動産競売について、同裁判所が平成元年八月一一日言渡した売却許可決定に対し、抗告人から執行抗告があったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一、本件執行抗告の趣旨及び理由は、別紙執行抗告状及び「執行抗告の理由」と題する各書面の写し記載のとおりである。

二、本件記録によれば、次の事実が認められる。

本件競売の対象とされた物件は、青森県八戸市大字鮫町字下松苗場一四番二六三宅地二八一・七九平方メートルとその地上の建物(家屋番号一四番地二六三 居宅 木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建 一階床面積七七・七六平方メートル、二階床面積三八・八八平方メートル)及び未登記付属建物(軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建物置兼車庫約二六・四四平方メートル)である。そして、右各建物敷地以外の部分に庭木が植栽されているが、右庭木が立木法の適用を受ける独立の不動産であるとか、あるいは債務者において取引の客体とする意思をもって、明認方法を施していると認めるべき資料はない。また、庭石も本件土地の定着物である。したがって、これらは、本件土地と別個独立の財産と認めることはできない。

三、次に、本件土地・建物の評価及び競売の経緯についてみると、記録によれば、次の事実が認められる。

(一)  昭和五八年九月二〇日、本件建物につき、債権者財団法人公庫住宅融資保証協会から不動産競売申立がなされ、原裁判所は同月二一日競売開始決定をなし、同裁判所が選任した評価人佐藤俊彦により、同年一二月一日本件建物中主建物の価格は五、二九〇、〇〇〇円、附属建物の価格は五八一、〇〇〇円、法定地上権の価格は二、八九〇、〇〇〇円と評価され、その合計八、七六一、〇〇〇円が最低売却価額と定められて、昭和六〇年一二月一七日まで三回にわたり競売手続が実施されたが、買受けの申出がなかった。

(二)  昭和六〇年六月一二日、本件土地・建物につき、債権者青森日本信販株式会社から不動産競売申立がなされ、本件土地・建物は一括して競売されることとなり、本件土地・建物の最低売却価額は一一、一九五、〇〇〇円と定められて昭和六一年一一月二八日まで二回にわたり競売手続が実施されたが、それでも買受けの申出がなかった。

(三)  昭和六二年二月一九日、債権者財団法人公庫住宅融資保証協会から、既に五回に及ぶ期間入札が実施されたにもかかわらず、未だに落札者が現れないこと、この間における不動産価額低迷の動向に鑑み、価額の見直しの実施を求める旨の上申がなされた。そこで、同裁判所は同年二月二〇日、前記評価人に対し、「1.過去五回入札を実施したが、買受けの申出がなかった事実 2.不動産市場の需給動向を考慮した意見を提出されたい。」旨の命令を発した。前記評価人は、同年二月二七日本件建物中主建物の価格は四、六六五、〇〇〇円、附属建物の価格は四二二、〇〇〇円、本件土地の建付地価格は六、八九七、〇〇〇円と評価し、競売による売却であることを考慮して三〇パーセントの市場減価をなすのが相当である旨の鑑定評価書を提出した。そこで、同裁判所は、本件土地・建物の最低売却価額を八、八〇一、〇〇〇円と定め、同年四月から同六三年二月まで三回にわたり、期間入札による競売を実施したが、依然として買受けの申出はなかった。

(四)  そこで、同裁判所は、平成元年五月一八日、「1.過去八回入札を実施したが、買受けの申出がなかった事実 2.不動産市場の需給動向を考慮した意見を提出されたい。」旨の命令を前記評価人に発し、同評価人は同年六月一日付補正評価書を提出した。同評価人は、本件土地の建付地価格が五、〇七一、〇〇〇円、主建物自体と附属建物自体の合計価格が四、三七一、〇〇〇円と評価し、前記同様三〇パーセントの減価が妥当であるとし、結局、評価額は六、六〇九、〇〇〇円であるとの評価をした。そこで、同裁判所は、右評価額を最低競売価額と定めて、売却を実施したところ、同年七月二一日から同月二八日まで実施された期間入札において、有限会社マルフジ土地産業ほか一名からの入札があり、同年八月一一日午前一〇時、同裁判所は最高価買受けの申出をした右マルフジ土地産業に対し本件土地建物を金六、八〇九、〇〇〇円で売却を許可した。

四、以上の事実によれば、本件土地・建物の売却価額がてい減したのは、不動産市場における需給関係からやむを得ないものというべきであって、本件記録を精査しても、最低売却価額の定めが不当に安価に過ぎるとはいえない。

五、よって、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 糟谷忠男 裁判官 渡邊公雄 後藤一男)

〈以下省略〉

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